| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-195 (Poster presentation)
目の水晶体の組織は層状に蓄積し、かつ蓄積した後では代謝が行われないため、蓄積した時点の元素の同位体比を保存する。そのため、生物の一生における同位体比の時系列情報のタイムカプセルとして機能することが期待され、長期のモニタリングに代わる低コストな手法として、近年注目を集めている。本研究では、動物園で死去した鳥類および哺乳類を対象に、水晶体切片の連続的な放射性炭素測定を行い、水晶体に保存された同位体比が表す年代軸を解析した。種間および水晶体内で放射性炭素年代を比較することで、水晶体の成長様式や同位体情報の蓄積期間が分類群間でどのように異なるかを評価し、水晶体の時系列同位体分析の妥当性と実用的限界を検討した。放射性炭素年代測定の結果、哺乳類および鳥類のいずれにおいても、水晶体の中心部から周辺部に向かって¹⁴C年代が新しくなることが確認され、水晶体が形成順序に沿った年代情報を保持していることが示された。他に長期にわたり出生記録を保持できる組織のない鳥類では初めて56年前の出生記録を再構築できた。水晶体の成長軸に沿った年代―半径の関係性の多くは、既存の水晶体の重量ベースの成長曲線と整合し、指数関数モデルとして表された。ワオキツネザルのみ、体重の増加モデルと類似した成長パターンが得られた。水晶体の周辺部では、哺乳類では、近年までの情報も反映されたが、鳥類の場合は、失われる場合が多かった。これらの結果から、非ヒト哺乳類と鳥類の水晶体中心の出生記録は生涯保持されることが確認された。哺乳類と鳥類における水晶体に基づく年代軸は、水晶体および体重の個体発生的変化および関連する成長動態を考慮し、種特異的に解釈・パラメータ化される必要があることが示された。これらの結果は、長期の寿命をもつ種においても、生活史を通した同位体比の時系列情報を用いた過去の生態系復元を行うことができる可能性を示した。