| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-200 (Poster presentation)
氾濫原依存種は河岸の施工などにより河川水域での生息地が喪失し、湿原やため池等が貴重な生息地となっている。環境DNAを用いた魚類調査は希少魚種の生息地を攪乱しない非侵襲的な方法として注目されている。長野県上田市の菅平湿原は標高約1250mの低層湿原であり、数多くの希少動植物が生息している。第4次レッドリスト絶滅危惧1A類のシナイモツゴ(Pseudorasbora pumila)も2015年の調査で確認されたが、その後専門的な調査は行われず、現状は不明であった。本研究では、菅平湿原における魚類相の現状と季節的変動を明らかにするため、環境DNAメタバーコーディングを用いた継続調査を実施した。
ANEMONEの枠組みで湿原内の1地点で2020年4月~2024年10月に約3か月間隔で合計17回採水した。得られた採水試料について魚類メタバーコーディング解析を行い、PCR増幅時に既知濃度の内部標準DNAを添加することで、検出魚種の環境水中DNA濃度を推定した。
調査の結果、フナ属、シナイモツゴ、ドジョウ、ドジョウ属、シマドジョウ属、オイカワの5属6OTU(操作的分類単位)が検出された。フナ属の環境DNA濃度が相対的に大きく、菅平湿原ではフナ属が優占していると推測された。また、水温が低く融雪による流量増加が生じる3月~4月において検出OTU数および魚類全体の環境DNA濃度が低い傾向が見られた。この現象には魚類の活動低下および融雪水による希釈が影響している可能性が示唆された。シナイモツゴは6月~9月に検出され、菅平湿原において本種の存続が確認された。また、本種と交雑するモツゴ(Pseudorasbora parva)や本種を捕食する魚種等の存続を脅かす魚種は確認されなかった。菅平湿原では農地からの流出土が堆積し乾燥化・森林化が進行しており、抽水植物群落の減少や種多様性の低下が懸念されている。これらの環境変化はシナイモツゴを含む魚類群集の存続を脅かす可能性が高い。今後、湿原環境の変化と魚類相との関係を継続的に監視することが重要である。