| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-203 (Poster presentation)
島嶼環境は,特異な選択圧によって劇的な形態変化が引き起こされる「進化の実験場」である.伊豆諸島のノコギリクワガタは、大顎・脚・触角が一様に短縮した八丈島集団と,本土と八丈の交雑帯で,各形質が本土型や八丈型あるいは中間的な状態を示す中間諸島集団に大別される.本研究では,八丈島で見られる連動した形質縮小が,なぜ中間諸島では部位ごとに独立して生じるのかを解明するため,野外集団の形態解析と人為交配系統のQTL解析を組み合わせて検証した.
伊豆諸島野外集団の形態計測の結果、大顎長は南下に伴い段階的に縮小する一方,符節の短縮は八丈島集団のみで顕著であった.本土 × 八丈間の戻し交配世代のQTL解析の結果から,第6染色体の22–39 cM領域において,大顎サイズ,符節,および触角遠位部のQTL信頼区間が重複していることが判明した.信頼区間内には,他種の付属肢形成に関わることが知られているDachshundが含まれており,有力な候補因子と考えられた.さらに,大顎のサイズ変異には他のQTLも関与しており,大顎の形態変異は複数の座によるポリジェニックな背景に支えられていることを示している.
以上の結果は,本土集団から八丈島集団への進化の過程で,付属肢遠位部が,共通の主要なQTLを介した「発生モジュール」として制御されていることを示唆している.その一方で,大顎のサイズは他の付属肢とは独立した追加的な制御を受けていることを示唆している.中間諸島集団において符節の長さを維持しつつ大顎が縮小しているのは,付属肢全体に影響を及ぼす変異とは独立に,大顎に特異的な変異が蓄積した結果である可能性がある.本研究の結果は,島嶼における形態分化が,遺伝的な制約と,それを柔軟に回避する適応として生じていることを示唆している.