| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-206  (Poster presentation)

シロオビアゲハの捕食圧評価による擬態多型維持仮説の検証
Testing hypotheses on mimetic polymorphism by evaluating predation pressure in Papilio polytes

*吉岡秀陽(鹿児島大学大学院), 鶴井香織(琉球大学), 辻和希(琉球大学)
*Shuya YOSHIOKA(Kagoshima University), Kaori TSURUI-SATO(University of the Ryukyus), Kazuki TSUJI(University of the Ryukyus)

ベイツ擬態は, 無毒な生物が有毒な生物の形態や行動を模倣することで捕食者から身を守る現象である. アゲハチョウ属ではメス限定の擬態が独立に進化しており, その中には擬態する擬態型メスと擬態しない非擬態型メスが共存する多型種も少なくない. なぜ自然選択上不利なはずの非擬態型メスが淘汰されないのかという謎について, 擬態の利益を相殺するコスト, つまり擬態のトレードオフの存在が実験下で示されてきた. しかし, 野外では捕食者による選択圧 (捕食圧) を直接測定することが難しく, 実証研究は限られている. 本研究では, メス限定擬態多型を持つシロオビアゲハ Papilio polytes の擬態遺伝子型頻度を雌雄間比較することで, 間接的な捕食圧の評価を試みた. 理論上, 擬態のトレードオフが存在する場合, 捕食圧が非擬態型メスに偏った状態で擬態遺伝子型頻度が平衡に達すると予測される. このとき, 擬態遺伝子型頻度は単一表現型のオスよりもメスで高くなるはずである. 毒蝶の頻度が異なる琉球列島5地域で調査を行った結果, 毒蝶が生息する2地域含む3地域で, シロオビアゲハのメスの擬態遺伝子型頻度がオスよりも高かった. さらに, 全地域の雌雄個体を用い, 地域, 性別, 毒蝶の頻度を固定効果とした一般化線形モデルを構築した. その結果, 地域と性別の主効果が有意であり, メスで擬態遺伝子型頻度が高かった. これらの結果は, 擬態の効果及び非擬態型メスへの偏った捕食圧を明確に示唆していた. 理論的な予測に基づくのであれば, この結果は擬態のトレードオフ仮説を支持している. ただし, 野外では遺伝子型頻度が非平衡な場合でも, 擬態遺伝子型頻度に雌雄差が生じ得る. 従来の仮説は遺伝子型頻度の平衡状態を前提としていたが, 実際には擬態遺伝子型頻度は毒蝶の発生ピークに応じて一時的な増減を繰り返す. 今後はこのような非平衡な動態を考慮した上で, 遺伝子型頻度の時系列データを解析する必要がある.


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