| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-211 (Poster presentation)
噴気地帯は植物の生育が困難な極限環境の一つであり,植物の適応進化を促す舞台でもある.この環境では,火山ガスによる植物体地上部へのストレスのほか,強酸性(pH=2-3)かつ高温(60℃)な土壌が植物の生育を阻害する.これらの値は,多くの植物の生育限界に相当することから,噴気地帯に生育する植物には未知のストレス耐性機構が存在する可能性がある.そこで本研究では,日本列島の噴気地帯に生育する被子植物9種を対象に,ドラフトゲノムの構築と遺伝子発現比較から,種を超えて共通する耐性遺伝子の同定を目指した.
まず,各種の生育環境を定量化するため,根圏土壌の成分分析を実施した.その結果,対象9種は土壌pHと地温に基づく土壌特性から3つのグループ(強酸性かつ高温・強酸性のみ・高温のみ)に大別されることが明らかとなった.次に,各種のストレス耐性候補遺伝子を探索するため,噴気地帯に生育する野外個体から複数地点で試料を採取し,遺伝子発現量を評価した.非噴気地帯に生育する近縁種との発現比較から,複数地点で共通して高発現する遺伝子を抽出したところ,高温土壌に生育する種群では熱応答に関わる遺伝子の発現が顕著であった.特にHeat shock protein(HSP)遺伝子は「高温のみ」グループに属するすべての種で共通して高発現していたことから,高温土壌での植物の生存においてHSPの増産が非常に重要であることが示唆された.続いて,強酸性土壌に生育する種で高発現する遺伝子を探索すると,AlやNなどの酸性土壌で問題となるイオンへの応答に関わる遺伝子のほか,低pHにより誘発される過酸化水素の代謝に関わる遺伝子が多く含まれていた.前者は種間での共通性が低かった一方,後者は強酸性土壌に生育する多くの種で共通していたことから,噴気地帯への進出には低pHへの応答が重要であった一方,各イオンへの応答性の違いによって噴気地帯内で生育可能な範囲が規定される可能性が推察された.