| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-212 (Poster presentation)
多くの多細胞生物は、母親および父親由来の2種類のゲノムセットを持つ。しかしながら、両ゲノム間には利害対立が潜在し、どちらかの由来親に偏った対立遺伝子の発現バイアス(=ゲノムインプリンティング)が生じる場合がある。特殊な血縁構造と分散様式を併せ持つ社会性昆虫は、ゲノムインプリンティングの理論検証に適した材料である。そこで、本研究では、沖縄産のトゲオオハリアリを対象に実験系を構築し、子世代における父母アリルの特異的発現の解析を進めた。沖縄本島の複数地点から採集した個体を用いて人工交配コロニーを組み、全ゲノムリシーケンスにより父母の識別が可能な多型サイトを特定すると同時に、子世代の3カースト(未分化・女王・ワーカー)における3つの組織(脳・中脚・カースト決定に関与するgemma)それぞれのRNA-seq解析を行った。階層ベイズモデルによる由来系統の補正を経て発現バイアスを分析したところ、多くの組織において母親由来アリルの優先的な発現が確認された。一方で、一部の組織では、父親由来アリルの優先発現が見られた。これらの結果は、ゲノムインプリンティングが固定的な現象ではなく、発生段階や組織に応じて異なる発現パターンを示す可塑的な現象であることを示唆する。