| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-213 (Poster presentation)
水田は食料生産の場だけでなく、生物多様性や土壌保持、里山景観の形成など多面的な機能を担っている。しかし近年、農業従事者の高齢化や後継者不足により耕作放棄地が増加している。水田維持に不可欠な公共水利施設である用水路は管理に多くの労力を要し、これが耕作放棄の一因になっている。Lee et al.(2020)は用水路維持活動を協力行動として捉え、空間構造の下では隣接耕作者間の協力が促進され、耕作放棄が抑制されることを理論的に示した。しかし現実には、用水路維持活動への参加をめぐり社会的圧力が生じている可能性がある。そこで本研究はLee et al.(2020)のモデルを拡張し、社会的圧力が協力行動を促進し、耕作放棄を防ぐことができるのかについて、理論解析とシミュレーションの両面から検討する。
社会的圧力として3種類を導入した。タイプAは個人の用水路維持管理努力量が小さくかつ集団平均が大きい場合に生じる制裁的な圧力、タイプBは個人と周囲の努力量の差に応じて生じる圧力、タイプCは個人の努力量が自己基準を下回る際に生じる良心の呵責による内面的な圧力。これらの社会的圧力をLee et al. (2020)に組み込み、完全混合モデルではアダプティブダイナミクスを用いて進化動態を解析し、空間構造がある場合にはエージェントベースモデルを用いて進化シミュレーションを行った。
その結果、完全混合モデルでは、Lee et al. (2020)では集団全体が耕作放棄に至るのに対し、拡張モデルではタイプAとCの社会的圧力により集団の用水路維持努力が高まり、耕作が維持されやすいことが示された。また、タイプBでは最終的に耕作放棄が生じるが、比較的長期間にわたり耕作が持続された。さらに、空間構造が存在する場合はLee et al. (2020)に比べ、いずれの社会的圧力下でも耕作放棄が生じにくいことが明らかになった。