| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-217 (Poster presentation)
社会行動は、自身と相手の適応度への影響の正負に基づき四つに分類される。この四つの行動の中で、自身の適応度を下げて相手の適応度を高める利他行動と、自身の適応度も相手の適応度も下げる嫌がらせは、いずれも自己コストを伴うため、特別なメカニズムなしには自然選択の結果、淘汰されると考えられる。しかし、実際には、利他行動も嫌がらせ行動も身の回りで観察され、これらの行動がいかに進化しえたのかは不思議である。利他行動がいかに進化しえたのかは長年にわたり精力的に研究されてきたが、自己コスト行動が現実に観察されることこそ問題の核心である以上、嫌がらせがいかに進化しえたのかもまた同様に検討されるべきである。動物は同じ個体と反復して相互作用するが、その場合に報復的利他行動が進化し得ることはTrivers(1971)により示唆されている。互恵性と言われる行動パターンである。本研究では、このような繰り返し状況を想定し、条件付き嫌がらせの進化可能性を検討した。進化ゲーム理論に基づく繰り返しゲームの解析の結果、繰り返し相互作用の下では、利他行動と同様に嫌がらせ行動も進化し得ることが確かめられた。ただし、進化しやすい戦略の形は利他行動とは異なる。すなわち、「相手が嫌がらせをした場合には自らは行わず、相手がしていない場合には行う」という、互恵性とは逆の条件付き戦略が進化可能であった。これは、嫌がらせを選ぶことで将来的に嫌がらせを受けづらくなり、長期的には得をするためと解釈できる。以上は、「相手が利他的に振る舞うときのみ利他行動で応答する条件付き利他行動が進化しやすい」という従来知見と対照的であり、「やられたらやり返せ」は嫌がらせの文脈では成立しないことを示している。