| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-225 (Poster presentation)
クチブトゾウムシ亜科(Entiminae)の昆虫は、体表の鱗片内部に構造色発色性の網目状の微細結晶(フォトニック結晶)を有する。しかし、フォトニック結晶が生体内でどのように構築されるか、結晶構造がどのように進化し、様々な体色を作り出すかは、多くの生物で未解明である。これらの問題に取り組むモデルとして、我々は海浜性ゾウムシの一種であるスナムグリヒョウタンゾウムシ Septicus tigrinusに着目した。S. tigrinusでは生息する海浜の砂色によって鞘翅表面の白色鱗片と黒色鱗片の割合が異なっていることがわかっており、これは砂地に紛れる隠蔽擬態と考えられている。興味深いことに、電子顕微鏡観察を行なったところ、白色鱗片は内部のフォトニック結晶による構造色を呈する一方、黒色鱗片は結晶構造を欠き構造色を呈さないことが見出された。そこで、本研究では体色の種内多型に着目し、未だ明らかとなっていないフォトニック結晶を有する鱗片の体表での配置制御や、その進化に関する遺伝的基盤を解明するために、遺伝学的な交配実験を行なった。具体的には、実験室内で系統維持されているS. tigrinusの本州産の白色型と北海道産の黒色型の交配実験によってF2世代のゲノムデータをddRADseq法により取得し、量的形質遺伝子座(QTL)解析により、S. tigrinusの海浜適応をもたらしたパターニング制御遺伝子の探索を試みた。交雑F1世代の個体は黒色型に近い体色を示したのに対し、交雑F2世代の黒色斑紋の占有率は連続的な正規分布を示し、白色型と黒色型に明瞭に二分できなかった。従って、S. tigrinusの黒色斑紋が量的形質であることが示唆された。また、黒色斑紋の占有率と有意な相関を示すQTL のピークは検出されなかったが、これはS. tigrinusの体色のパターニングが効果量の小さい複数のQTLによって制御されているためであると推測される。