| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-228  (Poster presentation)

半自然草地の管理放棄後の遷移に沿った生態系エネルギーフラックスの変化
Changes in ecosystem energy flux following succession after semi-natural grassland abandonment.

*山口滉太(東京農業大学), 中島啓裕(日本大学), 今井伸夫(東京農業大学)
*Kota YAMAGUCHI(Tokyo Univ. of Agriculture), Yoshihiro NAKASHIMA(Nihon University), Nobuo IMAI(Tokyo Univ. of Agriculture)

 半自然草地とは、人為的攪乱によって維持されてきた生物多様性の高い草地であるが、近年は管理放棄により面積が急減し生物多様性が低下している。生態系評価において、生物多様性は生態系の活力と機能性の指標として広く用いられているが、種の集合的な役割を考慮できない。一方、分類群間に流れるエネルギーの相対的な重要性に注目した「エネルギー論的アプローチ」は、多様な分類群を同時に比較でき、生産者と消費者間の関係を定量化できる包括的な手法である。しかし、大きな労力がかかるため先行研究はほとんどない。そこで本研究は、熊本・阿蘇の半自然草地、若齢・老齢二次林、植林の4植生タイプにおいて、植物、鳥類、哺乳類のエネルギーフラックスを評価した。
 鳥類の体重密度(g m-2)とエネルギー摂取量(MJ m-2 year-1)は、草地で最大で、遷移の進行とともに減少した。哺乳類のそれは鳥類の約1.6-18.6倍も高く、草地で最低、若齢林で最大であった。植物の地上部バイオマスと純一次生産(NPP)は、遷移の進行とともに増加し、植林でも高い値を示した。鳥類のNPPに対するエネルギー消費割合は、草地で高く、直接消費(一次消費者による植物の摂食)よりも間接消費(二・三次消費者による消費)の割合が高かった。哺乳類のそれは、二次林でやや高く、間接消費が占める割合は低かった。
 以上の結果は、草地の開放的な構造が餌資源へのアクセスを容易にし、高いエネルギーフラックスを支えていることを示唆する。一方、バイオマスやNPPが高い植林や老齢林が必ずしも高い消費者エネルギーフラックスを持つわけではなく、生態系の健全性をバイオマスやNPPだけで評価することの限界も示された。本研究は、半自然草地や発達途上の若齢林が持つ生態学的価値に新たな光を当て、多栄養段階にわたるエネルギーフローを考慮した生態系評価の重要性を示している。


日本生態学会