| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-235  (Poster presentation)

流域生態系の栄養バランスを診断するマルチ同位体統合モデル: 硝酸-酸素同位体の適用
Integrated multi-isotope model to assess nutrient balances in watershed ecosystems: Application of nitrate oxygen isotopes (δ18O and Δ17O)

*奥田昇(神戸大学), 尾坂兼一(滋賀県立大学), 木庭啓介(京都大学), 石田卓也(広島大学), 岩田智也(山梨大学), 陀安一郎(総合地球環境学研究所), 小澤優介(神戸大学)
*Noboru OKUDA(Kobe Univ.), Ken'Ichi OSAKA(Univ. Shiga Pref.), Keisuke KOBA(Kyoto Univ.), Takuya ISHIDA(Hiroshima Univ.), Tomoya IWATA(Yamanashi Univ.), Ichiro TAYASU(RIHN), Yusuke OZAWA(Kobe Univ.)

肥大化する社会・経済活動は、生態系本来の窒素・リン循環を撹乱し、世界中の流域で富栄養化を引き起こしてきた。先進国の流域では、富栄養化の問題を解決するために下水道インフラが整備され、水質は劇的に改善した。ところが、窒素・リン負荷が削減されたことにより、生態系の生産性が低下する再貧栄養化が新たな問題として顕在化し、一部の自治体では、生態系の生産性向上を目的とした下水未処理水の放流が開始された。生態系には、その機能を最大限に発揮できる最適な栄養バランスが存在するため、窒素・リン濃度に基づく総量規制ではなく、栄養バランス(窒素とリンの相対比)に基づく生態系管理が有効である。しかし、そもそも、生態系にとって最適な栄養バランスの基準がなければ、その診断手法も存在しない。そこで、本研究は、景観化学量論に基づいて、流域の栄養バランスを規定する景観特性を抽出するとともに、硝酸およびリン酸の酸素安定同位体を用いて、生態系の窒素・リン代謝機能をin situで測定し、流域の栄養バランスを診断する革新的な同位体統合モデルを確立することを目的とする。
本発表では、硝酸の酸素安定同位体(Δ17O-δ18O)を用いて河川生態系の窒素代謝を推定するモデルを琵琶湖流域の複数の流入河川に適用した事例を紹介する。河川間比較の結果、リン負荷の指標である全リン(TP)は集水域の水田面積割合とともに増加する一方、窒素負荷の指標である全窒素(TN)は建物用地割合とともに増加した。栄養バランスの指標であるTN/TPは、6.2-63.3の範囲で変動し、集水域の水田面積割合が中庸な河川で低くなる下に凸型の二次曲線に適合した。同位体モデルによって推定された河川の窒素代謝指標はTN/TPに対して上に凸型の二次曲線に適合し、TN/TP=4.4で極大となった。また、その観察値は、TN/TPが29.0で最大となった。流域生態系の窒素代謝に最適な栄養バランスは、レッドフィールド比(TN/TP=16)の周辺領域に存在すると示唆された。


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