| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-236 (Poster presentation)
河川生態系において、懸濁有機物(Fine particulate organic matter; FPOM)は、流域の物質循環や食物網構造を理解する上で重要である。FPOMは通常、落葉の分解物、剥離した底生藻類、河床堆積物の再懸濁物から構成される。これらに加え、海や湖からの遡上魚も、糞や卵の放出や河床撹乱を通じてFPOMの量や質に影響を与える可能性がある。しかし、遡上魚がFPOM動態に与える影響は十分に検討されていない。そこで本研究では、琵琶湖流入河川を対象に、遡上魚が河川におけるFPOM動態に及ぼす影響を調査した。
調査は、琵琶湖流入河川である鵜川、安曇川、知内川、大川で実施した。河床は、鵜川と大川が泥質、安曇川と知内川が砂質である。これら河川には、夏季にコイ科魚類ハス(Opsariichthys uncirostris)が大規模に遡上する。ハスは一回産卵型で、産卵後は死骸を残さずに湖へ戻る。各河川で魚類密度の異なる6地点を設定し、河川水を濾過してFPOMを回収した。FPOM動態の評価のため、遡上魚由来有機物(15‰)とそれ以外(~0‰)を判別可能な窒素同位体比(δ15N)を測定した。
河川の底質の違いにより、FPOM動態に差異がみられた。砂質な2河川では、魚類密度が高い下流側で水中のFPOM態N濃度およびδ15N(0〜8‰)が上昇した。さらに、FPOMのδ15Nと同地点で測定したNH4+のδ15Nとの間には正の相関が認められた。この結果は、魚類由来NH4+の寄与増加に伴いFPOMのδ15N値が上昇していることを示しており、高いδ15N値を持つ魚類由来有機物がFPOM組成に寄与していることを示唆する。一方、泥質な2河川では、δ15N値は低く(<0‰)、地点間の明瞭な変動は見られなかった。このことは、ハスが産卵床として好む細粒堆積物において、河床撹乱による堆積有機物の再懸濁の影響が相対的に大きいためと考えられる。以上から、砂質河川では遡上魚類による直接的な有機物供給効果に加え、泥質河川では河床撹乱に伴う物理的な有機物付加効果も重要である可能性が示された。