| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-257  (Poster presentation)

日光国立公園大沼地区におけるWebGISと市民参加による防鹿柵と植生回復モニタリング
Monitoring Deer Fences and Vegetation Recovery in the Onuma Area of Nikko National Park Using WebGIS and Citizen Science

*髙橋俊守, 熊谷咲耶(宇都宮大学)
*Toshimori TAKAHASHI, Saya KUMAGAI(Utsunomiya Univ.)

日光国立公園大沼地区(栃木県那須塩原市・標高約980m)は、全国の国立公園の85%以上を占める特別保護地区を持たない小規模生態系拠点である。湿原、落葉広葉樹林、スギ・ヒノキ植林が混在し、自然観察の拠点として活用・保全されている一方、ニホンジカによる植生被害が深刻化している。
著者らは大沼地区を含む塩原自然研究路において4年間にわたり生態系被害を調査した。調査ポイント186か所のうち約86.5%、45種238本に樹皮剥ぎを確認し、カエデ類をはじめとする落葉広葉樹への選好的食害や景観・自然観察資源への影響を明らかにした。
これらを受けて那須塩原市は2025年に保護面積約31.5 ha、延長約2.8 kmの防鹿柵を設置した。本研究はこの柵の持続的な管理と植生回復の定量的評価を目的とし、①通年カメラトラップ調査によるシカ利用特性の把握、②GISアプリを活用した柵モニタリング体制の構築、③画像解析と指標種観察による植生回復モニタリングの3つを統合した、WebGISを核とした協働型管理モデルの構築を試みた。
カメラトラップ調査(2024年9月〜翌年8月、8地点、計2,813台日)の結果、中・大型哺乳類10種を確認した。ニホンジカの年平均RAIは27.2、最高値は50以上を示し、春季(4〜5月)に最大となって落葉広葉樹林や湿原境界部への空間的集中が認められた。柵の見回りには塩原温泉ビジターセンターのボランティアスタッフが当たり、損傷を現場で記録・共有できるGISアプリを用いる。同アプリは2025年に環境省が導入したArcGIS Hubと連携する設計とし、国立公園管理との情報共有基盤としての展開を図る。植生回復モニタリングでは林床の定点撮影による緑被率の定量評価と指標種調査を実施し、ボランティアと大学が連携して継続的なデータ蓄積を図っている。
先行する植生被害調査から柵管理・植生回復評価までを一貫した研究として位置づける本モデルは、科学的データに基づくボトムアップ型協働管理の実践例として、全国の小規模生態系拠点への展開が期待される。


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