| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-266 (Poster presentation)
ニホンジカの食害による森林下層植生の衰退は各地で報告されており、奈良県でも森林更新や再造林に影響を及ぼしている。奈良市は天然記念物「奈良のシカ」の生息域であり、植生の変化を注意深く監視する必要がある。そこで本研究では、森林の下層植生の衰退度を広域的に調べた。
奈良市8地点、山添村2地点、天理市3地点の合計13地点で天然林・二次林の下層植生の衰退度調査を実施した。衰退度調査は2014年度または2015年度と、2023年度の合計2回実施した。
藤木式下層植生衰退度調査(藤木,2012)により、目視で低木層の植被率を算出した。ニホンジカの痕跡と低木層の植被率から、6段階の下層植生衰退度(無被害、衰退度0~衰退度4)で判定した。ただし、アセビが低木層に優占している場合は下層植生衰退度を算出せず、「アセビ優占」として扱った。
2014年度または2015年度の調査では、調査地13地点のうち、無被害が1地点、衰退度0が10地点、アセビ優占が2地点であった。2014年度または2015年度の調査結果と2023年度の調査結果で下層植生衰退度に変化があったのは、天理市の1地点であり、2015年度の衰退度0から2023年度の衰退度1へ衰退が進行していた。
今回の2回の調査では、下層植生衰退度は大きな変化はみられなかった。唯一下層植生衰退度が変化していた天理市は、奈良市から離れた場所に位置しているため、天然記念物「奈良のシカ」とは異なる集団による影響と考えられる。
調査地の多くで下層植生衰退度が衰退度0であり、ニホンジカによる森林下層植生への影響は広域な地域で比較的小さいと考えられる。ただし、奈良市の1地点ではニホンジカの痕跡が増加していた。また、山添村の2地点でディアラインの形成が「無」から「明瞭」に変化していた。このように、ニホンジカによる森林下層植生への影響が徐々に拡大している地域があることから、今後も森林下層植生のモニタリングを継続して実施し、広域的に植生の変化を把握することが重要である。