| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-270 (Poster presentation)
南アルプス鳳凰三山ドンドコ沢水源域(標高2,350–2,550 m)は、低温・積雪により環境フィルタリングが強く働くニッチ境界領域である。水源周辺3地点(camera001=ドンドコ沢上流、camera002=小屋裏支流、camera003=ドンドコ沢下流)に設置した自動撮影カメラの記録(2023–2025年、555イベント)を用い、気温と日周時間(4時間×6区分)および哺乳類出現の関係から、時間的ニッチ再編成と垂直分布シフトを検討した。画像一次処理にAddaxAI、二次処理にTimelapse2を用い、AIが生成したシェルコマンドにより半自動で種判定・個体数抽出・温度統合を行う処理系を確立した。気温変動の説明力は種(η²=0.35)と時間帯(0.14)が主要で、年は小さかった(0.03)。個体数と気温の単純相関は弱く、活動量は温度そのものより、概日リズムと資源・リスク配分に基づく時間的ニッチ分割(temporal niche partitioning)に依存する可能性が高い。特にcamera003では、シカが相対的に高温期、ウサギが低温期に偏り、種間で温度帯・時間帯の分離が顕著であった。標高約2,550 mでニホンアナグマを確認し(国内で観察された最高標高記録である可能性)、温暖化に伴う上方シフト(upslope range shift)の兆候と解釈した。さらに、近年確認されなかったニホンカモシカも再検出され、干渉競争下でも狭い空間ニッチを維持する残存個体群の可能性が示唆された。簡易水質調査では水源CODが高値を示し、動物利用増加に伴う溶存有機物負荷の増大が示唆された。39年前の気温データとの比較では、高温期が前後に約1カ月延長する傾向が認められ、水源域の利用可能期間の拡大が動物の垂直分布と時間的ニッチの同時変化を駆動した可能性がある。高山帯水源は、気候変動応答が生物行動と水質に同時に現れるセンチネル生態系と位置づけ、今後も定量的な研究手法を導入して解析を進める。