| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-027 (Poster presentation)
世界自然遺産・小笠原諸島における生態系保全には、外来種対策や固有植生回復など、自然更新のサイクルに沿った長期視点が不可欠である。しかし現状の保全事業は公的資金に依存し、その性質上数年単位の短期保全が中心となり、本来必要な長期保全との間に乖離が生じている。そのため、公費に頼らず民間資金を導入できる持続可能な生態系保全の仕組みが求められる。
本研究は、小笠原の特性に適した保全モデルの提案を目的とした。固有種の成長特性を解明するために、小笠原の森林内にて固有種オガサワラグワと外来種シマグワ等を対象とし、デンドロメーターを用いた幹肥大量の計測およびフェノロジー観察を実施し、生育特性と季節変動を定量化した。並行して豪州の海外事例を対象に、自然資源を活用した資金調達の仕組みを調査し、日本の制度との比較分析を実施した。
調査の結果、現地モニタリングは炭素吸収排出量推定や保全効果の把握に有効であり、オガサワラグワと外来種の成長差異を数値化した。日本の制度は炭素価値の資金化に有用だが、国有林中心の小笠原では制度上制約があり、カーボンクレジットだけでは十分でないことが分かった。一方、生物多様性クレジットは土地所有形態に縛られず直接的な価値化が可能である。国際的にも生物多様性の成果を取引可能な仕組みが形成されつつあり、ネイチャークレジットのような制度が存在する。しかし、自然市場が環境目的を達成するには品質を保証する5つの原則を満たす必要があるとされるが、既存市場はいずれも不完全である。国有林中心で固有性の高い小笠原では、炭素価値より生態系価値そのものの評価が適すると考える。
本研究は、生育データを科学的根拠として、生物多様性クレジット導入による民間資金循環型の長期保全モデルの可能性を示した。制度の完全性を確保し、地域特性に合った指標を構築することが、持続可能な生態系保全実現の鍵となると考える。