| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-040 (Poster presentation)
クワガタムシの幼虫では腹部体内に一対のオレンジ色の楕円形構造が観察され、俗に「メス斑」と呼ばれる。この構造は従来、メス幼虫に特有の卵巣原基とされ、幼虫の雌雄判別に利用されてきた。しかし、これを裏付ける解剖学的な証拠は存在せず、メス斑が本当に卵巣原基かどうかは疑問が残されている。一方、先行研究からメス成虫には菌嚢と呼ばれる、酵母などを有する共生器官が存在することがわかっている。そこで私達は、メス幼虫のメス斑は、メス成虫に存在する菌嚢と同様に共生酵母を保持する器官ではないかと考え、これを検証するために研究を行った。まず、幼虫の成長過程におけるメス斑のサイズの変遷を調べたところ、幼虫の成長に伴い大きくなることが明らかになった。また、オスでもメス斑を持つ個体が存在したことや、解剖を通した観察から、メス斑は消化管内壁に存在していることが明らかとなり、従来いわれていた卵巣原基でないことが強く示唆された。また、摘出したメス斑の真菌培養を行い、酵母特異的なプライマーを用いたPCRにより26S rRNA遺伝子を増幅した。さらに、増幅産物の配列解析を行った結果、メス斑由来の菌体は、メス成虫の菌曩でみられる酵母と同一種のキシロース発酵性酵母であることが明らかになった。さらに、クワガタムシ幼虫の共生酵母は、蛹室の壁面を経由して成虫の菌嚢へと受け継がれるといわれている。そこで、私たちは自然の蛹室で羽化した個体と人工に作成した蛹室で羽化した個体を用い、それぞれ菌嚢由来の酵母を培養し、PCRと配列解析を行った。結果、共生酵母の検出率は自然蛹室羽化個体では高く、人工蛹室羽化個体では低かった。以上の結果から、クワガタムシ幼虫のメス斑は成虫の菌嚢にも含まれている共生酵母を保持している共生器官である可能性が高いと結論づけられ、メス斑内の共生酵母は蛹室壁面を経て成虫の菌嚢へと移動している可能性が示唆された。