| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-048  (Poster presentation)

アゲハの幼虫期記憶の世代間継承とエピジェネティクスに関する研究【A】
Epigenetic Transmission of Learned Larval Memory across Generations in Papilio xuthus【A】

*長井丈(神戸市立井吹東小学校)
*Jo NAGAI(Ibuki Higashi ES)

 昆虫において、幼虫期に形成された学習記憶が世代を超えてどのように伝わるのかは、ほとんど明らかになっていない。
 本研究は、ナミアゲハ(Papilio xuthus)において、「親の幼虫期に学習した記憶が子や孫へと世代間継承され、さらにその影響が世代を重ねるごとに弱まる」ことを実証したものである。まず、親世代の幼虫に対し、ラベンダーのにおいと電気ショックを同時に与え、「ラベンダーのにおい=嫌な経験」という学習をさせた。その後、成虫期にY字実験装置を用いて、一方の通路に「砂糖水のみ」、もう一方に「砂糖水+ラベンダーのにおい」を置き、ラベンダーのにおいを避けるかどうかを調べた。子世代および孫世代では幼虫期に電気ショック実験を行わず、成虫期のみ同様のY字実験を行った。その結果、親世代70.9%、子世代64.8%、孫世代60.0%がラベンダーのにおいを避け、世代が進むにつれて避ける傾向が徐々に弱まることが分かった。一方、電気ショック実験を経験していない野外採集個体(対照群)では51.0%と、ラベンダーのにおいに対して避ける傾向はなかった。
 これらの結果は、DNA配列を変えずに遺伝子の働き方が変化し、その変化が次世代に受け継がれる「エピジェネティクス」の関与が考えられる。本研究は、ナミアゲハ(Papilio xuthus)における記憶の世代間継承と、その影響が世代を重ねるごとに弱まっていくことを実証したものであり、将来的に生物の行動や知能の進化の解明、環境適応や生物保全など幅広い分野への応用が期待される。


日本生態学会