| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-071 (Poster presentation)
本研究では、イノシシが土壌撹乱を通して、他種のハビタットを形成する効果を明らかにするため、「ヒトが作った小さな池」と「イノシシによって作られた水たまり」の生物相を比較した。調査は、イノシシの生息が確認されている千葉県印西市にある水田の周辺において、2024年8月から10月にかけ、4回にわたり行った。各調査では、メッシュサイズ1mmの網を用いて定量的な水生動物調査を行うとともに、環境要因として各水域のサイズ、水深、浮泥の深さ、および水面と底の温度を調べた。
調査の結果、シオカラトンボのヤゴは、どちらの池でも観察されたのに対し、ハイイロゲンゴロウ、ヒメゲンゴロウ、マツモムシはヒトが作った池で多く観察された(カイ二乗検定, 5%未満)。また千葉県において絶滅危惧Ⅰ類、重要保護生物(B)にカテゴライズされているマルガタゲンゴロウが、ヒトが作った池でのみ発見された。一方、環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧(NT)に登録されているコオイムシは、イノシシの水たまりでのみ3匹見つかった。侵略的外来種であるアメリカザリガニはヒトが作った池で有意に多かった。これはイノシシが作った水たまりは水深が浅く、水がすぐ干からびてしまうため、アメリカザリガニの幼体の餌となる生物が少ないことが影響している可能性がある。
本研究の結果、イノシシは、土壌撹乱を通してシオカラトンボのヤゴなどの生物の生息環境をつくりだす生態系エンジニアであることが確認された。イノシシは農業における有害鳥獣として駆除対象とされるが、生物多様性保全との両立のため、適度な撹乱をもたらす他の生物(ヒトも含む)の状況を踏まえ、イノシシの生息地や行動パターンなどを調査し、イノシシの捕食者というだけでない生態系での役割を考慮することが重要であると考えられる。