| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-086 (Poster presentation)
1.動機と目的
二胚動物門ニハイチュウは、頭足類の腎嚢内に片利共生する、体長数㎜程度、細胞総数40個未満の多細胞動物で、細胞数を減少させながら進化してきた生物である。蠕虫型と滴虫型の2種類が存在し、蠕虫型は、極帽を腎臓表面に接着して、一生を頭足類の腎嚢内で終える。滴虫型は、腎嚢で生まれた後、別の宿主を探して海水中を遊泳し、新しい宿主内で成長するとされている。蠕虫型と滴虫型の2種類は、生活環を交えながら一生を全うすると考えられているが、詳細は不明である。進化のメカニズムを明らかにする上で重要な生物であることから、筆者らは二ハイチュウの生活環を解明することを目的に研究を行った。
2.研究の方法
筆者らは、マダコの腎嚢からニハイチュウを採取し、独自に開発した25℃の飼育培養液中で毎日2時間、3か月間にわたって観察を行った。
3.結果と考察
滴虫型は蠕虫型の体内で発生する。滴中型の受精卵は、蠕虫型の体内を中央の両性生殖腺から前後方向に移動しながら、卵割を繰り返して成長する。第3卵割までは等割を、第4卵割以降は分化が起こって不等割する。その後屈光体が形成され、4個の芽胞細胞が芽胞嚢細胞に包まれ、母体内で繊毛を動かし始める。最後に、滴虫型は母体の体皮細胞の間をすり抜けて次々と外液中に飛び出し泳ぎ回る。滴虫型が受精卵から海水中に放出されるまでの生活環において、卵割に要する時間は全体の約87%を占める。低密度の環境下では、蠕虫型からは同じ蠕虫型が生まれるが、高密度の環境になると、蠕虫型から滴虫型が発生する。腎嚢中にとどまり続ける蠕虫型から生じる蠕虫型は、一度に1~2個体程度であるが、滴虫型は一度に多くの個体を生じる。生育密度が高くなり環境が悪化すると、大量の滴虫型が発生して海水中を泳ぎ回り、異なる遺伝子を持った滴虫型個体と出会うことは、結果として種の保存に有利にはたらいたのかもしれない。