| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-093 (Poster presentation)
ケツァルコアトルス(Quetzalcoatlus northropi)は白亜紀後期に北アメリカに生息していた史上最大級の翼竜であり、その巨大な翼から長距離飛行が可能であったと長らく考えられてきた。しかし近年の飛行力学的研究では、体重、翼面積、筋出力といった物理的制約により、持続的な飛行能力には限界があった可能性が指摘されている。本研究では、先行研究に基づく形態学的・飛行力学的解析および古環境学的知見を整理・統合し、ケツァルコアトルスの生態について再評価した。先行研究によれば、本種が滑空を維持するためには約0.6~0.7 m/sの上昇気流が必要であり、現生大型鳥類と比較しても長距離かつ連続的な飛行は困難であったと考えられる。また、生息地とされる白亜紀後期のテキサス地域は湿地や氾濫原が広がる環境であり、安定した強い上昇気流が継続的に発生する条件ではなかった可能性が高い。以上から、ケツァルコアトルスの飛行は局所的な上昇気流を利用した短距離滑空や限定的なソアリングに依存していたと推測される。本研究ではこの結果を踏まえ、翼の巨大化を「飛行能力の有無」ではなく「飛行制約下における多機能的適応」としての再解釈を試みた。具体的には、巨大な翼は①捕食者に対する視覚的威嚇、②性的選択に関わるディスプレイ、③翼膜による音波反射を介した聴覚補助といった複合的機能を担っていた、という仮説を提唱した。即ち、ケツァルコアトルスの翼は単なる飛翔器官ではなく、湿地環境に特化した多機能構造として進化したと予想される。