| | 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-119 (Poster presentation)
本研究は、磯焼けの主要因とされるムラサキウニおよびアイゴの摂食行動に着目し、植食動物を排除するのではなく、その行動特性を利用して藻場を保全する人工藻場礁の設計を目的とした。鳥取県沿岸ではウニやアイゴの増加により藻場の衰退が報告されており、従来の駆除や防除網には労力や生態系への影響などの課題がある。そこで本研究では、生物の感覚環境を設計する視点から対策を検討した。まずムラサキウニを対象に、形状および素材の違いが登攀行動に与える影響を検証した。直径3・6cm円柱と一辺6cm四角柱、さらにステンレス・コンクリート・ポーラスコンクリートを用い、計112.5時間のタイムラプス観察を行った。その結果、細い円柱や表面粗度が極端な素材では登りにくく、高所の餌は感知されにくいこと、また壁沿いに移動する行動特性が明らかとなった。次にヒメアイゴを対象に、色彩が滞在時間および摂食回数に与える影響を検討した。赤・黄・緑・青・白・黒の色板で水槽を区画し、24時間絶食後に行動を記録したところ、長波長側の色や白黒に忌避傾向が認められた。さらに反復実験から慣れは生じるが、約3か月で記憶が薄れる可能性が示唆された。以上より得られた形状は「海の中で傘が開いたようなかたち」になると考える。細い円柱でポーラスコンクリートの基質を高所に設置し、忌避色で着色することで、植食動物と共存しながら藻場を守る新たな人工藻場礁の設計が可能と考えられる。本研究は、生物の行動理解を基盤とした持続的な磯焼け対策の提案である。今後は実海域での検証実験を行い、水流や設置場所の違いが効果に与える影響を評価する必要がある。また流体シミュレーションを用いて構造の安定性と藻類の定着効率を検討し、工学的最適化を図る。行動生態学と海洋工学を融合させ、地域の環境保全と漁業資源の回復に貢献する実装可能な技術へ発展させたい。さらに教育現場での普及も視野に入れる。