| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S01-5  (Presentation in Symposium)

海陸栄養動態を考慮した地球システムモデルの開発
Development of an Earth System Model incorporating land-ocean nutrient cycles

*中川樹(北海道大学), 加藤知道(北海道大学), 宮内達也(北海道大学), 南久美子(北海道大学), 伊藤昭彦(東京大学), 羽島知洋(海洋研究開発機構)
*Tatsuki NAKAGAWA(Hokkaido Univ.), Tomomichi KATO(Hokkaido Univ.), Tatsuya MIYAUCHI(Hokkaido Univ.), Kumiko NAM(Hokkaido Univ.), Akihiko ITO(Univ. Tokyo), Tomohiro HAJIMA(JAMSTEC)

リンは陸域・海洋生態系における主要な制限栄養素であり(Elser et al., 2007; Zhang et al., 2011; Moore et al., 2013)、その動態は地球システムにおける物質循環―気候フィードバックの理解に不可欠である。しかし、地球システムモデルにおける陸域―河川―海洋を結合した動的なリン循環の表現は未だ十分ではない。そこで本研究では、(1)陸域生態系モデルVISIT(Ito & Inatomi, 2012)を用いた陸域リン循環モデルの開発、(2)リン循環モジュールの地球システムモデルMIROC-ES2L(Hajima et al., 2020)への導入と陸域―河川―海洋間のリン輸送結合、(3)陸域から河川を通した海洋へのリン輸送量の評価、を目的とする。
陸域リン循環では、Wang et al.(2010)に基づき、大気沈着、土壌中での化学変化、土壌からの流出、植物によるリン吸収の四過程を実装した。これらの過程はMIROC-ES2Lにおいて陸域物質循環を担うVISIT-eにも組み込まれた。その際、陸域生態系単体モデルでは土壌からの流出として扱われていたリンを、河川輸送を介して海洋へ接続する形に改良した。これにより、従来はレッドフィールド比(C:N:P = 106:16:1)に基づき窒素輸送量から推定されていたリン輸送量を、窒素とは独立に計算することが可能となった。開発したモデルを用いて、産業革命以前の状態に外部強制力を固定したControl実験およびhistorical実験を行った。
陸域リン循環を導入したモデルは、既往研究で報告されている葉のN: P比(Du et al., 2020)を精度良く再現した。また、MIROC-ES2Lにリン循環および河川輸送過程を導入した結果、河口へ流出するリン量が従来推定値よりも少ないことが示された。農地におけるリン施肥やダスト沈着の地域差は考慮されていないものの、本結果は、陸域から海洋へのリン輸送量の推定値および地球システムモデルにおけるリン循環表現の再評価の必要性を示唆する。


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