| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S03-2 (Presentation in Symposium)
化石から、その生物が生きていた当時の「生き様」を読み解くことは容易ではない。とりわけ、他生物との相互作用である共生関係は、化石とは無縁の形質と捉えられがちである。しかし実際には、硬組織の化学組成にその痕跡が記録されることがあり、そのシグナルを抽出することで古生態の復元が可能となる。
浮遊性有孔虫は、化石として豊富に産出する海洋プランクトンであり、「光共生(細胞内に光合成を行う藻類を共生させる現象)」を殻から復元できる点で注目されている。浮遊性有孔虫は、炭酸カルシウムの殻を螺旋状に成長させるため、個体の殻には誕生から死に至るまでの成長履歴が保存されている。この殻の炭素安定同位体比は、海水中の溶存無機炭素組成を反映するが、共生藻を有する場合には、その光合成により石灰化場の炭素同位体組成が改変される。さらに、成長に伴う共生藻量と光合成強度の増加に応じて、その改変は段階的に強まることが知られている。したがって、殻の成長段階に沿った同位体解析により、個体が光共生を行っていたかどうかを識別できるという仕組みだ。
化石種における共生生態が復元できれば、光共生がいつ進化的に確立したのかを検証するための重要な指標となる。さらに近年、現生浮遊性有孔虫では分子生物学的解析により、宿主と共生藻の高い特異性や、系統内で単一の共生藻を共有するクレードの存在が明らかになってきた。単に光共生種か否か、というだけでなく、化石から共生藻の種類まで推定できれば、光共生の進化史をより精緻に描くことが可能となる。実は近年、これを可能にする手法も登場してきている。本発表では、演者のこれまでの研究成果を交えつつ、化石を使った光共生研究の可能性と今後の展望を紹介したい。