| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S03-3  (Presentation in Symposium)

極限環境における古生態学-化石からどこまでわかるのか?ー
Paleoecology in Extreme Environments: What Fossils Can — and Cannot — Tell Us

*Robert JENKINS(Kanazawa University)

化石記録は,ある生物がどの時代・地点に存在したかを示すだけではない.保存バイアスの制約は大きいが,化石およびそれを産する地層を詳細に解析することで,古生物の生態や群集構造,共生関係も復元できる.進化生態学は,生物の形質・行動・群集構造が,どのような環境・生態系のもとで進化したのかを解明する学問であり,化石はその過程を時間軸上で検証する具体的証拠を提供する.本講演では,深海の冷湧水・熱水域や大型動物遺骸の分解環境などの極限環境を例に,化石記録からどこまで生態学的情報を読み取れるのかを紹介する.
白亜紀メタン湧水では,堆積物中に保存された微生物バイオマーカーと鉱物組成・同位体比から古メタン濃度勾配を復元し,その勾配に沿った群集構造の変化を明らかにした.これは,メタンや硫化水素といった化学資源への適応が化石から読み取れる事例である.また同環境において,白亜紀カサガイ類は付着基盤(チューブワームの棲管か腹足類の殻か)の違いによって,同一種でも殻形態が大きく変化することを,現生子孫種の遺伝子解析と殻形態・微細構造の比較から示した.
さらに白亜紀には,首長竜遺骸に鯨骨群集と類似の竜骨群集が形成されていた.北海道の事例では,骨表面の微生物穿孔痕の分布と特殊な腹足類の分布が一致し,この腹足類が骨上の微生物マットを餌資源としていた可能性が示唆された.ただし,このような推定は化石の分布や産状に依存し,確証に乏しい.そこで,硬組織中に保存されうる化石アミノ酸の同位体比分析に注目している.現生化学合成生態系での個別アミノ酸同位体比研究を踏まえ,化石への適用可能性を議論する.
これらの事例は,産状・形態,硬組織の微細構造や化学シグナル,現生比較を統合することで,極限環境における適応進化や生態的相互作用を化石から復元できることを示す.化石は不完全であるが,進化生態学に新たな地平を提供する可能性を論じたい.


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