| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S05-4 (Presentation in Symposium)
様々な環境に生息しているハビタットジェネラリスト種は、生物がどのように多様な環境に進出し分布を拡大するのかを理解するうえで有用な研究対象となる。特に、微小な地理的スケールにおける異なる環境への特殊化は、ハビタットジェネラリストの分布拡大を支える重要なプロセスと考えられるが、これがどのように達成されているかは十分に理解されていない。本研究では、河川と止水環境がモザイク状に分布する関東平野に広く生息する淡水魚のクロダハゼRhinogobius kurodaiに着目し、本種がどのように異なる環境へ進出し適応しているのかを、野外情報に基づく仮説設定と室内実験によって検証した。河川と止水環境では水流の有無や空間構造が大きく異なることから、まず野外観察をもとに空間利用の違いを予測し、室内での水槽実験によって行動の違いを検証した。AIを用いたトラッキングによる定量解析の結果、止水群は水槽の上中層をより頻繁に利用し、基質に体を定位する「張り付き行動」の頻度が低いことが明らかになった。さらに形態解析では、止水群はより細長い腹鰭形状とスレンダーな体型を示し、これらの形質差は空間利用や行動の違いと関連すると考えられた。一方、遺伝解析では河川群と止水群の遺伝的分化は認められず、むしろ地域ごとの集団構造がみられたことから、各地域において河川から止水への進出が反復的に生じたことが示唆された。以上より、クロダハゼは平野に反復して出現する止水環境へ局所的に適応することで分布拡大を達成してきたと考えられる。本研究は、室内実験による行動・機能形質の検証が野外における適応過程の理解に有効であることを示すとともに、適応進化研究における多様なアプローチを統合する研究デザインの重要性を強調する。