| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S06-2 (Presentation in Symposium)
昨今のシーケンシング・バイオインフォマティクス技術の爆発的進歩は、生態学のあらゆる分野においてデータの量と解像度を飛躍させた。その反面、得られた膨大なデータの解析に必要な人手や時間がボトルネックとなる状況が加速しており、「データの有無」だけでなく、それを解析する「アイデア」が研究の差別化要因として重要性を増している。とりわけ微生物の生態学ではその影響は大きく、環境ゲノム解析技術の普及で「対象が微小ゆえに研究が困難」という微生物生態学の弱点は「対象が微小ゆえに群集丸ごとデジタル化できる」という強みへ転換し、環境微生物の多様性や生態をとりまく理解は大きく前進した。本講演では、湖の微生物生態学に取り組んできた演者の研究を、その技術的背景を軸に概説する。特に近年は、未培養微生物群の全ゲノム多様性を高解像度で捉え、環境特性と絡めて集団遺伝学的観点から解析し、環境中のゲノムや遺伝子のふるまいを詳細に理解するアプローチに興味をもっている。今やメタオミクス解析で環境中の未培養微生物の全ゲノムや発現情報を得ることは一般的となっているが、最前線ではロングリード技術やリードマッピング解析を組み合わせ、種内のゲノム多様性を1塩基多型や構造多型のレベルで網羅することが可能となっている。さらにシングルセルゲノム解析により、細胞ごとの「個性」といえるほどに多様化した超可変なゲノム領域が存在することも明らかになってきた。また、互いに隔離された湖の生態系は、その物理化学的特性や地史に応じ独自に進化してきた微生物生態系を擁する。この特性を生かした時系列解析や湖間比較解析により、高解像度データに「同所・異所・時間」の3軸を相乗させた議論が可能となる。演者はこのデータを原石として多角的な研究展開を構想しており、本講演では多様な生態学者の皆様から新たな解析の切り口やアイデアを頂きたい。