| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S06-5  (Presentation in Symposium)

個の内側(代謝)をみて生態系を理解する
Looking inside the cell (metabolism) to understand the ecosystem

*佐藤由也(産業技術総合研究所)
*Yuya SATO(AIST)

 極端な例だが、捕食者がいてもそれが空腹かどうかで、捕食-被食相互作用の起こりやすさは異なるはずである。このように、生態系の構造や機能は、生物種の存在や環境条件だけでなく、各個体がどのような内部状態にあるかによっても規定される。しかし、動植物を対象とした生態学では、「各個体がどのような状態にあるか」を直接捉えることは容易ではない。一方、それは微生物では可能である。
 本発表では、微生物を対象に、遺伝子発現解析を用いて個体の代謝状態、すなわち「個の内側」を観測することで、生物間相互作用と生態系機能の成立過程を理解するアプローチを紹介する。例えばこの方法によって、存在量がごくわずかな構成員の代謝活動が群集全体の機能を左右する例や、昆虫と共生細菌の農薬解毒をめぐる助け合いの関係などを明らかにしている。
 また、微生物生態系は物理的なサイズが小さいため、特定の環境条件を設定した実験系の構築が、動植物実験と比べてずっと容易である。この点を活かして、自身が注目する環境要因や相互作用を強調した生態系を構築し、その変化の過程を観察することができる。これに関して、微生物密度が微生物同士の相互作用や生態系形成に与える影響や、人工微生物生態系モデルにおける搾取と干渉を介した群集形成メカニズムについて紹介する。
 さらに、微生物は小さいが、自然環境や生態系に与える影響は非常に大きい。これについて、都市と土壌微生物の関係や、土壌微生物とカブトムシの関係を紹介したい。微生物は、個体レベルのプロセスと群集・生態系レベルのパターンを結びつける理想的なモデル系といえる。本発表で紹介する例を基に、微生物を用いた生態学の可能性について考えたい。


日本生態学会