| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S10-1 (Presentation in Symposium)
多くの生物にとって社会的集団生活は、種の存続と繁栄を支える重要な生存戦略であり、個体間の密接なコミュニケーションは行動・生理機能・個体寿命に多面的な影響を及ぼす。一方で、社会性生物においては、孤立環境が個体の生存に深刻な負の影響をもたらすことが、種を超えて報告されている。私は、遺伝的に均一な集団で高度な労働分業を営む社会性昆虫であるアリをモデルとして、社会環境が個体および集団の生存戦略にどのように関わるのか、その生理的基盤の解明に取り組んできた。本発表では、労働アリにおける孤立ストレス応答を例に、遺伝的に均質な集団における「集団効果」とその生理的意義について紹介する。これまでに、社会的コロニーから隔離し単独で飼育した労働アリと、10匹のグループで飼育した労働アリの個体寿命を比較し、社会的孤立が寿命を著しく短縮することを明らかにした。また、個体識別タグを用いた行動解析により、孤立アリでは空間嗜好性の変化を伴う顕著な行動異常が生じることを示した。一方、10匹のグループ飼育群では迅速に新たな社会的労働分業が形成され、各個体が行動および代謝の面で適応する様子が観察された。さらに、孤立群とグループ群を対象とした次世代シーケンス解析および個体レベルの行動定量により、社会環境が個体寿命を制御する分子メカニズムとして酸化ストレス応答の関与を示唆する結果を得ている。本講演では、隔離個体とグループ飼育個体の寿命・行動・生理機能・遺伝子発現の比較を通じて、真社会性生物において社会環境がどのように個体生存戦略を形成するのか、その仕組みを議論したい。