| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S10-6  (Presentation in Symposium)

高頻度腸内細菌叢時系列の位相解析による機能的動態の理解
Functional dynamics of the gut microbiome revealed through phase analysis of high-frequency time-series data

*増川理恵(東京科学大学)
*Rie MASUKAWA(Institute of Science Tokyo)

腸内細菌叢は、宿主の生活リズムや内的相互作用の影響を受け、多様な時間スケールで変動する複雑な動態を示す。特に数時間スケールでは、細菌間の協働的代謝リレーや概日リズムが主要な駆動因子と考えられるが、高時間分解能での連続観測には技術的制約があり、生体での実証研究は依然として限られている。
我々はこの課題を克服するため、長期間の高頻度サンプリングを可能にするマウス自動糞便採取装置を開発・運用している。本発表では、本装置を用いて1時間間隔で2週間連続取得した、菌(ゲノム)および機能遺伝子の高頻度組成時系列データの解析結果を報告する。
自己相関解析により、菌組成および機能組成の双方に明瞭な24時間周期が確認され、概日リズムが支配的な変動成分であることが示された。一方、日単位の長期変動は菌組成で顕著であったのに対し、機能組成は比較的安定であった。これは、同一機能を担う菌群が時間的に入れ替わりながらも、群集全体として周期的機能を維持している可能性を示唆する。
さらに、各時点の増減パターンから周期内の相対的位置(位相)を推定し、菌・機能遺伝子の変動を位相表現へ写像する位相解析を導入した。その結果、菌種は明期および暗期にピークを持つ二群に分離され、それぞれ異なる機能プロファイルを示した。明期群は粘膜由来炭水化物利用関連遺伝子に富み、暗期群は食餌由来炭素代謝経路が優位であった。これは、腸内細菌叢が宿主の摂食・生理リズムと対応しつつ時間的に機能分業している可能性を示す。さらに秩序パラメータ解析により、ケージ移送直後に位相同期が一時的に低下し、その後回復しながら位相構造が整序化していく馴化過程が定量的に示された。
本発表では、これらの結果を基に、腸内細菌叢における同期の生態学的意義、宿主との相互同調機構、ならびに本動的システムの自律性について議論する。


日本生態学会