| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S11-1  (Presentation in Symposium)

水生無脊椎動物における多価不飽和脂肪酸生合成酵素の進化と機能的多様性
Evolution and functional diversification of enzymes involved in polyunsaturated fatty acid biosynthesis in aquatic invertebrates

*壁谷尚樹(東京海洋大学)
*Naoki KABEYA(TUMSAT)

 多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids, PUFA),とりわけエイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA),アラキドン酸(ARA)に代表される長鎖多価不飽和脂肪酸(Long-chain PUFA, LC-PUFA)は,水生生態系における栄養連鎖の基盤を成す重要な生理活性分子である.従来,これらの脂肪酸は主として微細藻類や一部の原核生物によって合成され,動物は食物連鎖を通じて受動的に獲得するものと理解されてきた.しかし近年,種々の水生無脊椎動物においてもPUFA生合成に関与する脂肪酸不飽和化酵素(fatty acid desaturase)および鎖長延長酵素(elongase)が同定・機能解析され,動物自身が内在的にPUFAを改変・合成しうることが明らかになりつつある.
 本講演では,節足動物,軟体動物,環形動物,棘皮動物など多様な水生無脊椎動物を対象とした近年の研究を概観し,不飽和化酵素および鎖長延長酵素の系統進化と機能的多様性について紹介する.特に,これまで多くの動物では存在しないと考えられてきたωx不飽和化酵素の発見や,基質特異性の可塑性を伴う機能分化,さらには系統ごとの遺伝子喪失・重複を通じたPUFA生合成経路の多様化に注目する.加えて,一部の酵素系統に見られる特異な系統配置や配列特性を踏まえ,PUFA生合成関連遺伝子が水平伝播を介して獲得・拡散してきた可能性についても議論する.
 最後に,無脊椎動物におけるPUFA生合成能の進化的多様性が,水生生態系における脂肪酸供給の理解や,食物網研究における従来の前提にどのような再考を促すのかについて整理し,今後の研究の方向性を提示する.


日本生態学会