| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S11-3 (Presentation in Symposium)
生物の新規環境への進出は、種分化や形質の爆発的な多様化を促進する。では、どんな生物が新規環境に進出しやすく、どんな生物が特定の環境に拘束されるのだろうか?それらを左右する生理遺伝機構は何だろうか?生物の新規環境への進出の代表的な例が、魚類の海から淡水域への進出である。海と淡水域は、栄養分や浸透圧などに大きな違いがあり、一部の魚は淡水域に何度も進出する一方、全く淡水域に進出できない魚もいる。私たちは、この背景にある生理遺伝機構を探索するモデルとして、淡水域に何度も進出したトゲウオ科イトヨと、全く淡水進出しない姉妹種ニホンイトヨに着目した。飼育実験と脂肪酸解析より、イトヨはニホンイトヨに比べて、淡水域に少ない長鎖不飽和脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)の合成能が高く、淡水餌飼育下での稚魚生存率が高いことが分かった。全ゲノム解析、RNAseq解析、QTL解析等を行うと、ニホンイトヨはDHA合成酵素Fads2を性染色体上のみに持つ一方で、イトヨは常染色体にも新たなFads2のコピーを持っており、発現量も高かった。Fads2をニホンイトヨで過剰発現させると、淡水餌飼育下でのDHA合成量が増加し、死亡率も回復した。さらに、淡水で一生を過ごすイトヨ淡水集団では、Fads2のコピー数が更に増加していた。これらから、トゲウオでは、Fads2のコピー数変異が淡水進出能力の違いを生むと考えられた。一方、ニホンイトヨでは、1つしかないFads2が日長条件に応じて発現上昇することで、初夏の回遊時等に脂肪酸代謝を変化させていると示唆された。これらの一般性を検証するために、魚類48種の全ゲノム配列のメタ解析を行なった結果、Fads2のコピー数は、淡水に棲む幅広い魚種でも多かった。これは、Fads2のコピー数変異が魚全般の淡水進出の鍵となる役割を果たしてきたことを示している。