| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S11-6 (Presentation in Symposium)
脂肪酸は、生命維持に不可欠な生体分子であり、その生体内および生態系内での動態そのものが研究対象となる。一方で、生物個体の栄養・生理状態を評価する指標や、食物網解析におけるマーカーとしても広く利用されている。本発表では、脂肪酸分析を活用しながら取り組んできたカキ養殖漁業および沿岸海域の物質動態に関する研究を紹介する。宮城県志津川湾では、養殖場内外の粒状有機物の起源や混合状態を把握するためのマーカーとして、また沈降過程に伴う有機物組成や酸素消費活性の変化を追跡する指標として脂肪酸分析を用いてきた。さらに、同湾内での養殖カキと付着イガイとの餌料競合に関する研究では、両種の餌料組成の類似性を評価するマーカーとして、加えて付着生物除去施業が生産物品質に及ぼす効果を検証する指標として脂肪酸を活用した。宮城県沿岸22地点でのサンプリング調査では、海域の粒状有機物およびカキ軟体部の脂肪酸組成に地点間の空間的異質性が確認され、それに基づき、河川影響などの環境差が二次生産者であるカキの潜在的餌料組成や成育状態に及ぼす影響を考察した。脂肪酸は、生物・生態学の枠を越え、有機物の起源や機能を評価する指標として環境管理に資する物質動態解析にも応用できる。さらに、水産生物の生育状態や生産物としての品質・栄養価の評価指標として、社会的価値認識とも直結し得る。このような観点から、脂肪酸分析の活用について、その有効性・可能性と課題を整理したい。