| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S12-2 (Presentation in Symposium)
これまで、石灰岩上の土壌は高pH・低リン(P)可給性を特徴とし、その上に生育する植物は低リン環境に適応的な戦略をとると広く考えられてきた。しかし、近年の研究から、石灰岩土壌のP可給性は一様に低いわけではなく、実はPに富んだ土壌も形成されうることが示唆されている。しかし、石灰岩土壌のP可給性の多様性やそれを生み出す要因に関する研究はほとんど明らにされていない。また、P可給性のバリエーションに応じて植物種群のP利用戦略も変化すると考えられるが、特に富栄養な石灰岩生態系においては、植物種群がどのようなP利用戦略をとるのかはわかっていない。本発表では、石灰岩土壌のP濃度のバリエーションとそれを生み出す要因について、これまで発表者が行った日本国内での多地点調査をもとに議論する。さらに、富栄養な石灰岩生態系での植物のP利用戦略について、貧栄養な石灰岩生態系との比較を行った。
多地点調査の結果、石灰岩土壌は、全リン濃度において100倍以上という幅広い(300-34,000 mg kg−1)バリエーションを示した。これは、他の土壌タイプではみられない大きな変異である。表層土壌と母岩のP濃度の間には強い相関がみられ、土壌P濃度が母岩P濃度により規定されていることが示唆された。さらに土壌P濃度は母岩P濃度の約20倍となっており、岩石から土壌への変化、すなわち土壌形成の進行とともに、カルシウムが大量に溶脱することで相対的にPが濃縮していることが示唆された。樹木種の落葉前P再吸収効率は土壌P濃度が高いほど低くなり、石灰岩土壌のスペシャリスト種はゼネラリスト種(母材に関係なく出現する種)に比べて著しく低いP再吸収効率を示した。
これらの結果は、石灰岩という母材が、母材自身のP濃度のばらつきと土壌形成プロセスを通じて多様なP環境を生み出していることと、植物が幅広いP環境に応じて戦略を大きく変化させていることを示唆している。