| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S12-3  (Presentation in Symposium)

火山がもたらす土壌リン環境の多様性と広域分布種の適応戦略
Volcanos drive soil phosphorus heterogeneity and ecological adaptations of widespread species in Japan

*水上知佳(京都大・森林生態)
*Chika MIZUKAMI(Kyoto Univ. Forest Ecology)

火山灰はリンを含む一次鉱物に富み、その加入は土壌リン濃度を増加させる。環太平洋造山帯に位置し、火山活動が活発な日本列島には、火山灰の影響の違いを反映した土壌リン濃度に大きな空間変異が存在する。これまで温帯では、気候や土壌窒素可給性の変化に応じた樹木の分布応答(ニッチ)が調べられてきた一方で、火山灰の加入や母材など、地質的要因に大きく左右される土壌リン濃度の空間変異が温帯樹木の分布に及ぼす影響はほとんど明らかになっていない。さらに、土壌環境が植物種の多様化(ニッチ分化)をもたらすプロセスを理解するためには、栄養塩の獲得や利用に関する形質の種内変異に着目することが重要である。
本研究では、日本列島において幅広い土壌リン傾度に沿った樹木種の分布特性を明らかにし、さらに広域分布するコナラのリン獲得形質の種内変異を調べた。西日本~東日本にかけて、ほぼ同じ気候条件の森林内に、土壌全リン濃度で145~1232 mg kg−1に及ぶ大きな土壌リン傾度がみられた。植生と土壌データの解析から、コナラ優占林における共存種は、この土壌リン傾度に沿って入れ替わることが示され、土壌養分可給性の空間変異が群集組成の違いを生み出している可能性が示唆された。さらに、土壌リン濃度が異なるコナラ林での多地点調査によって、コナラのリン獲得形質の1つである根のホスファターゼ活性(有機態リン分解酵素)には土壌リン傾度に沿った種内変異が見られた。コナラは土壌リン可給性が低い森林において高い活性を示し、有機態リンの利用能力を高めていた。加えて、共通圃場実験により、この種内変異は遺伝的分化によるものではなく、生育地の土壌リン濃度に応じた可塑的応答であることが示された。土壌がもたらす植物種の多様化プロセスを明らかにするためには、より多くの地域・種を対象に種内変異の解明が重要であることについて議論する。


日本生態学会