| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S12-6  (Presentation in Symposium)

蛇紋岩地におけるキク科植物の種分化ゲノミクス
Speciation genomics of Asteraceae species in serpentine soils

*阪口翔太(京都大学)
*Shota SAKAGUCHI(Kyoto University)

地質の島(edaphic islands)における植物の局所適応と分化は、土壌からの選択圧、周辺集団からの遺伝子流動、さらに島の面積が規定する集団サイズの相互作用などによって決まると考えられる。とくに地理的隔離が弱い状況では、選択と遺伝子流動のバランスが重要となる。選択圧が不適合アレルの流入を上回れば局所適応は維持されるが、継続的な遺伝子流入は適応を阻害しうる。一方で、遺伝子流動は他集団で生じた適応変異の供給源ともなり得るため、地質の島が群島状に分布する場合には、既存変異の持ち込み効果も考慮する必要がある。このように、地質の島における植物の適応分化は、選択と移入の均衡によってその速度と安定性が左右される。
本研究では、北海道の超塩基性岩帯において複数の地質の島へ平行的に侵入しているアキノキリンソウ(キク科)を対象に、集団の適応分化に影響する要因を検討した。超塩基性岩地点と対照地点を12ペア設定し土壌分析を行った結果、超塩基性岩地点ではNi濃度が高く、Ca/Mg比も土壌型間で異なっていた。しかし同一土壌型内でも地点間のばらつきが大きく、選択圧には空間的変異が存在することが示唆された。ゲノムの中立領域では、一部の集団を除き、異なる土壌型間で遺伝子流動が認められた。一方、土壌型と有意に関連した適応候補遺伝子では、隣接集団間でもアレル分化が確認され、土壌の化学的特性が適応遺伝子周辺のゲノム領域に分岐選択を及ぼし、選択―移住平衡が成立している可能性が示された。
さらに、少数の超塩基性岩集団では隣接する非超塩基性岩集団との間の遺伝子流動が低下していたが、これは極端な土壌条件だけではなく、繁殖時期が1か月以上シフトしたことによる時間的隔離の結果と考えられた。この繁殖時期の変化は、超塩基性岩地における夏季の旱魃回避への適応の副産物である可能性があり、土壌の化学特性に端を発する環境選択が本種の生態的種分化を促進したことが示唆された。


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