| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S14-1 (Presentation in Symposium)
辻 和希,植松潤平(琉大・農,鹿連大院),山道真人(国立遺伝研)
種内の競争的なプロセスである自然選択が絶滅や種間競争といかなる関係を持つかは、集団生物学の黎明期から意見対立がある。ダーウィンやフィシャーは自然選択は種の「適応度」を上げると考えた。一方、ホールデンは逆に自然選択により種の絶滅が起こる可能性も指摘しているが、皮肉なことに彼が種の絶滅をまねく原因のひとつと考えた配偶者選択による非適応的形質の進化のアイデアを提起したのはダーウィンとフィシャーである。これら意見対立は、自然界に存在するさまざまな因果プロセスを理論上どう統合するかで「見える世界」が変わる可能性を示す。Yamamichi et al.(2020)TREEの種内適応荷重理論はホールデン的な観点からの統合を行なった。それによれば、血縁選択や性選択による種内の進化的利害対立は個体群成長抑制効果を一般的に持ちうるゆえ、多種共存を促す可能性がある。演者らはアリ群集で種内適応荷重仮説をテストしたUematsu et al. (2025) Ecology の内容を紹介する。アリはどの種も大概雑食で地面に穴を掘り暮らし、競争排除の考えと矛盾するニッチが似通った多種が共存する『プランクトンの逆説』の様相をアリ群集は呈している。本発表では、アリのような社会性昆虫群集では、とくに優勢種において同種非血縁者間の強い敵対的行動が包括適応度のロジックで進化しやすく、結果として種内競争が種間競争の効果を凌駕する状況を生み、古典群集理論が予測する通り多種共存をもたらしているとする証拠を提出する。動く動物で一般に困難なところの種内と種間の競争係数のフィールドでの実測がトゲオオハリアリで可能になったことが幸いした。本発見の一般性をより広範にテストするため今後集めるべき情報についても議論したい。