| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S14-5  (Presentation in Symposium)

多様性による適応荷重の緩和と生態的成功
Diversity Mitigates Adaptation Load and Enhances Ecological Success

*高橋佑磨(千葉大学大学院), 上野尚久(国立遺伝学研究所), 鈴木ひかり(千葉大学大学院)
*Yuma TAKAHASHI(Chiba University), Takahisa UENO(National Institute of Genetics), Hikari SUZUKI(Chiba University)

交尾を巡る利害は雌雄間で対立する。イトトンボ類では、交尾の際にオスがメス体内に残存するライバルオスの精子を掻き出すことができるため、オスの繁殖成功度は交尾回数の増加とともに高まる。一方、メスが残す子の数は自身が生産する卵数によって律速されるうえ、婚礼贈呈などの直接的利益も存在しないことから、メスにとって交尾の価値は必ずしも高くない。こうした非対称性のもと、オスがメスに対して一方的に交尾を試みる構図が進化しており、オスによる執拗な交尾試行は慢性的にメスの生存や繁殖を阻害し、種内適応荷重となると考えられている。アオモンイトトンボでは、メスに1遺伝子座に支配される色彩2型が存在する。この色彩多型は、交尾を巡る雌雄間の利害対立に対する進化的応答として生じたと考えられている。一方で、色彩2型の頻度には地理的変異があり、単型の集団から2型がほぼ等頻度で維持される集団まで多様である。野外の複数集団で本種の配偶行動を調べたところ、オスは多数派のメス表現型を探索像として保持することが明らかになった。そのため、メスに多型のない集団ではすべてのメスがオスの探索対象となるのに対し、メスに2型が存在する集団ではオスの探索像が個体間で分散し、その結果、メス1個体あたりが受けるハラスメントは軽減された。さらに、色彩2型が存在する個体群では個体群密度や安定性が高まることが示された。加えて、イトトンボ類の複数種について分布域や絶滅リスクを比較したところ、メスに色彩多型が存在する種ほど広い分布域をもち、絶滅リスクが低いことが示唆された。この結果は、メスの色彩多型集団のパフォーマンスの向上を導くことを意味している。裏を返せば、雌雄間対立の文脈で進化したオスのハラスメント行動が、個体群の衰退や分布域の縮小、さらには絶滅リスクの増加をもたらしえる種内適応荷重として作用していることを示すものである。


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