| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S15-1 (Presentation in Symposium)
自然条件下において環境は短期変化と長期変化が組合わさった複雑な様相を見せる。とくに季節変化は温帯の生物が経験する数週間から数カ月のスケールで起きる最大の環境変化である。私たちは、アブラナ科シロイヌナズナ属の多年生草本ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri subsp. gemmifera)の自然生育地におけるトランスクリプトーム・エピゲノムの時系列解析と環境応答実験を組み合わせ、フェノロジー調節における頑健性を解析した。
春化経路における主要な開花抑制因子をコードするFLCのホモログであるAhgFLCでは、遺伝子発現や活性型ヒストン修飾H3K4me3の蓄積変化に比べて、抑制型ヒストン修飾H3K27me3の蓄積変化に遅延が生じた。さらに、AhgFLC遺伝子座の転写開始点から遺伝子本体領域方向へのH3K27me3蓄積の拡大が、植物の生育ステージが季節の中で一方向的に移行するメカニズムとして機能することが明らかとなった。
また、季節エピゲノムデータを活用し、遺伝子プロモーター単独で週を越える環境応答(WER:week-long environmental responses)を持つものを探索した。その結果、プロモーター領域において抑制型ヒストン修飾H3K27me3の蓄積がWERを示す遺伝子座AhgADH1を同定した。AhgADH1のプロモーターにおけるH3K27me3蓄積レベルは低温に対してWERを示して低下し、2週間の処理に応答したが、1日の処理には応答しなかった。このプロモーターをレポーター遺伝子につないで導入すると、タンパク質にWER能力が付与された。今後は、このレポーター系を用いて記憶のメカニズムを探るとともに、分子記憶が重要な役割を果たすと予想される他の生態機能についても研究を展開する予定である。