| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S15-6 (Presentation in Symposium)
近年、生態学における環境DNA(eDNA)研究は目覚ましい発展を遂げている。当初は本技術の限界とされていた「周辺生物の在・不在情報」の取得にとどまらず、環境条件に応じた生物量と環境DNA量との関係についても数多くの研究が行われ、自然環境下で環境DNA量を生物量指標として用いるための条件が徐々に明らかにされつつある。一方で、「個々の生物の状態」についてはDNA検出のみでは把握できないため、依然として従来の捕獲・観察手法に頼らざるを得ないのが現状である。その例外となり得るのがDNAのメチル化である。環境中を漂うDNA断片におけるメチル化の程度を測定することで、DNAの持ち主となる生物の「状態」を推測できる可能がある。我々はこれを環境エピジェネティックス(e-エピジェネティックス)と呼び、その解析手法の開発に取り組んでいる。この手法が確立すれば、個体飼育環境下で非侵襲的に飼育個体の年齢を推定できるだけでなく、野外の環境DNAサンプルから地域個体群の齢構成や繁殖可能個体の有無、さらには繁殖成功度に関する情報を抽出することも可能となる。これにより、捕獲が困難な希少種や外来種を対象とした個体群動態の把握・予測のみならず、複数種の齢構成を同時に推定することで、群集レベルでの生物間相互作用を簡潔・迅速かつ非侵襲的に明らかにすることが期待される。さらに、近年実践段階に入りつつある環境DNAを用いた種内変異解析や系統地理解析と組み合わせることで、環境適応や進化過程の解明など、より広範な生態・進化学研究への展開も視野に入る。本発表ではこの技術開発の現状と課題、そして今後の展望について議論する。