| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S16-1 (Presentation in Symposium)
陸生生態系におけるデトリタスの分解研究は主に植物遺体に焦点が当てられてきたが、近年、動物死体を起点とする分解経路の評価が進みつつある。動物死体は存在量こそ植物遺体に劣るものの、高栄養かつ豊富な水分を含むことから、局所的に微生物活性と物質循環を促進するパルス資源として機能する。一方で、動物は死後、微生物による分解だけでなく、脊椎動物および無脊椎動物からなる死肉食動物(以下、スカベンジャー)によって消費される。スカベンジャーによる動物死体の消費は、死体が土壌へ直接還元される分解経路を部分的に迂回させ、生食連鎖へ栄養素を再配分する。さらに、スカベンジャーが死体の一部を運搬したり、死体から離れた場所で排泄を行ったりすることで、死体由来の栄養塩を空間的に分配する。したがって、スカベンジャーは動物死体の採食行動を通じて物質循環の時空間パターンを調整していると考えられるが、物質動態モデルにおいてその寄与は十分に評価されていない。
本講演では、栃木県日光市の森林で観察されたニホンジカ(以下、シカ)死体に対する脊椎動物の採食事例をもとに、中大型哺乳類によって摂取・分配されるシカ死体由来の栄養塩量を景観および年間スケールで推定可能かを検討する。シカ死体の97.6%が何らかの中大型哺乳類によって採食され、約1週間で骨および皮を除く軟部組織の大半が消失した。一方、採食時間や訪問当たりの採食割合は種間で異なり、一部の種では季節によって採食頻度が変化した。これらの結果は、中大型哺乳類によるシカ死体の摂取量や分配量を定量化するには、野外観察の時空間スケールを拡張する必要があることを示唆している。さらに、摂取量と排泄量に基づく栄養収支モデルや、消費量・運搬量と移動能力を統合した空間明示的な栄養塩散布モデルを構築することで、スカベンジャーによる物質循環機能を評価できる可能性がある。