| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S16-5  (Presentation in Symposium)

シカの踏みつけと採食が森林の炭素・窒素循環に与える影響:九州の事例紹介とレビュー
Effects of deer trampling and herbivory on forest carbon and nitrogen cycles: case studies in Kyushu and global review

*阿部隼人(九州大学), 付東川(九州大学), 李周強(九州大学), 久米朋宣(九州大学), 福澤加里部(北海道大学), 菱拓雄(福岡大学), 智和正明(九州大学), 片山歩美(九州大学)
*Hayato ABE(Kyushu Univ.), Dongchuan FU(Kyushu Univ.), Zhouqiang LI(Kyushu Univ.), Tomonori KUME(Kyushu Univ.), Karibu FUKUZAWA(Hokkaido Univ.), Takuo HISHI(Fukuoka Univ.), Masaaki CHIWA(Kyushu Univ.), Ayumi KATAYAMA(Kyushu Univ.)

動物が生態系の物質循環に果たす役割を調べるZoo-geochemistryという概念が注目されている。中でもシカ科動物(以下、シカ)は、世界的に広い分布域と多様な種分化を遂げており、その影響力は大きい。シカは主に採食、排泄(糞尿散布)、踏圧という3つの行動を通じて、生態系の物質循環に影響を与える。これまでの研究は、特定のシカ種と行動の組み合わせ(ヘラジカの排泄やニホンジカの採食等)に着目した個別の野外研究として進められてきた。一方で、これらを生態系モデルに組み込んだ事例は未だ少ない。シカの個体数が全球的に増加・高密度化している現状を踏まえると、将来の生態系変動を予測する上でモデリングの需要は高まっている。そこで本発表では、モデリングの事前段階として、発表者らが実施してきた森林のニホンジカに関する野外研究(特に踏圧と採食)を中心にレビューを行い、シカが炭素・窒素循環に与える影響経路を概観した。その結果、シカの踏圧は土壌物理性の改変(圧密による土壌の嫌気化やせん断による土壌侵食の促進)を引き起こし、土壌呼吸や養分溶脱などの土壌で生じる化学的プロセスを改変することが明らかになった。採食は強度かつ長期化した場合に植生構造の不可逆的な変化(下層植生の消失や不嗜好性植物の優占等)を引き起こし、植生の物質生産に起因する炭素・窒素循環の変化を引き起こした。同時に、シカによる踏圧や採食の影響を分離評価する試みは不足していた。今後は、既存の観測データの蓄積を待つだけでなく、モデル作成に必要なパラメータを特定し、その収集を目的とするバックキャスティング型の野外調査研究が必要になってくるだろう。


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