| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S18-1 (Presentation in Symposium)
メタンは強力な温室効果ガスである。水田土壌が湛水後に強還元状態になると、有機物の嫌気的分解により生じた酢酸や水素などを基質としてメタン生成古細菌がメタンを生成する。水田土壌で生成されたメタンは、大部分が土壌表面やイネの根の表面付近でメタン酸化細菌に消費されて大気中に出ていかない。しかし一部はイネの通気組織を通って葉や茎から大気中に放出され、これが水田からのメタン放出量の大部分を占める。一方、土壌が微好気状態になると、メタンよりさらに強力な温室効果ガスである亜酸化窒素が発生する。水田で通常の水管理をしている限り、亜酸化窒素の発生量はたいへん少ない。しかし長期中干や節水型乾田直播栽培により、夏の高温期に田面に水がない期間が長くなると、亜酸化窒素の発生量が大幅に増加する可能性がある。水田からのメタン発生を抑制する方法として、中干期間の延長、秋耕あるいは堆肥・有機肥料の秋施用、不耕起や生物攪乱による透水性確保、鉄施用や根の酸化力強化による強還元化の抑制などが知られている。ところが現在、中干延長だけがクローズアップされ、温室効果ガスの排出権を企業などに売却するJ-クレジットの対象とされている。中干延長、特に中干期間の前倒しにより、春の入水から中干までの連続湛水期間が短くなると、アキアカネやトノサマガエルなど水田で幼虫・幼生期間を過ごす多くの生物が、中干開始までに上陸できず死滅することになる。水田からメタンが多く発生する状況は、還元障害により米の収量が減少する状況とほぼ重なる。したがって地域風土に根ざしたメタン抑制対策を確立するためには、その地域で還元障害を起こさずイネを健全育成してきた篤農の知恵に学ぶ必要がある。そしてそのメカニズムを科学的に解明することにより、生物多様性への悪影響が小さい温室効果ガス対策を、地域発のイノベーションとして提示することが可能になる。