| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S18-3  (Presentation in Symposium)

稲作における水管理の農多様性と生物多様性
Agrodiversity and biodiversity in rice paddy water management

*日鷹一雅(アグロエコロジー協会)
*Kazumasa HIDAKA(West Jpn Agroecol. Assoc.)

稲作は、日本列島古来の食農システムである。現代稲作では、春~夏季にかけて田を湛水、苗移植、種籾直播し栽培する水稲作が一般的である一方、四半世紀前までは畑作の陸稲作も地域によっては慣行であった。例えば、演者の稲作研究は80年前半の関東地方で始まったが(例えば、Andow & Hidaka 1989)、当時つくば市周辺では水稲と陸稲の栽培が併存し、炭素動態の研究が農業環境技術研究所で行われていた(Koizumi et al. 1992)。稲作の水管理は、水稲と陸稲のように水田と畑地という対極の乾湿条件の両端の間に、様々な水管理の多様性が存在する(日鷹 1998)。稲作農生態系は、十分に湛水栽培するだけでなく、適地適作、品種選定等により、多様な食農システムが展開する農多様性(agrodiversity)がベースに在る。このような文化多様性を内包する生物多様性は、農生物多様性(Agrobiodiversity)と定義され(日鷹 2010)、アグロエコロジーの重要概念でもある(グリースマン 2023)。水田生物多様性の研究蓄積は本学会でも多いが、従来から水稲作偏重であった(例えば、江崎・田中編 1997; 大塚・嶺田 2020)。農地を湛水、栽培すれば、湿地の代替環境形成で生物多様性が増進。という保全管理則が、水田生物多様性管理上の定説になっている。ここでは農生物多様性、とりわけ水田で守られる生物多様性、水田農業依存性(Hidaka 2005; 日鷹ら 2006)を通して、稲作病害虫、雑草、天敵、ただの生物の研究事例から考察を進める。農生態系では、栽培管理に関わる灌漑、品種、除草、防除、肥培、作付などが複合的に、生物多様性に何らかの諸影響を及ぼす。気候異変の諸影響、生産現場と消費動向、政策などの諸変化で、稲作と米の食農をめぐる多様化は進む。今後は、農生物多様性の視点から、地域や地形ごとの農多様性に着目、稲作の農多様性と生物多様性の関係性をα~γ多様性の時・空間レベルの複雑系として捉え、うまく在来知も活かしながら順応的管理することが切望される。


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