| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S18-4  (Presentation in Symposium)

中干し時期の変化により想定される水田利用生物への影響
Potential impacts of changes in mid-season drainage timing on paddy field organisms

*金尾滋史(琵琶湖博物館)
*Shigefumi KANAO(Lake Biwa Museum)

近年、水田稲作に伴うメタン排出量削減を目的として、中干し期間の長期化や時期の前倒しといった水管理の変更が各地で進められている。これらの管理手法は温室効果ガス削減の観点から一定の有効性が示されている一方で、水田を生活史の一部として利用する水生生物への影響については、体系的な検討が十分とは言い難い。水田は米生産の場であると同時に、多くの生物が生息する環境でもあり、特に幼生・幼虫期を水中で過ごす生物にとって重要な二次的自然として機能してきた。
特にカエル類や水生昆虫などでは、産卵から変態・羽化に至るまでの発生過程が、水田の湛水期間や水位の安定性と密接に対応している。中干し時期の変化、とりわけ前倒しについては途中段階での生息環境の消失を引き起こし、個体の生残率低下や発生過程の中断を招く可能性がある。一方では、短い湛水期間で幼虫・幼生期が可能なやや乾燥に強い生物に置き換わる現象も想定され、滋賀県内において現在、急激に分布を拡大させているヌマガエルはその一例なのではないだろうか。このような影響は単一世代の問題にとどまらず、地域個体群の補充過程や個体群動態、さらには水田生態系における種間相互作用の変化へと波及することが推察される。
本講演では、水田利用生物の生活史特性を発生段階ごとに整理し、中干し時期・期間の変更がどのプロセスに制約を与えうるのかを概念的に検討する。その上で、それぞれの地域における水管理や、部分的な湛水継続といった管理オプションが、水田生態系のレジリエンス維持に果たす役割、そして気候変動緩和策としての水管理最適化を進めるにあたり、生物の生活史プロセスを組み込んだ評価枠組みの必要性を検討する。


日本生態学会