| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S19-4 (Presentation in Symposium)
虫こぶは、昆虫の寄生によって植物組織が肥大化または奇形化した特殊な構造物である。虫こぶ形成昆虫は、自分の都合の良いように植物の形や生理状態を操作改変して、これを巣として利用している。虫こぶの形態は、それをつくる昆虫の種によって決まっていることから、虫こぶは、昆虫の遺伝子発現の結果が植物の形として反映された「延長された表現型」の一例と言われているが、その分子メカニズムはまだよくわかっていない。最近我々は、エゴノネコアシアブラムシを対象に、虫こぶ形成の分子機構の解明に取り組んでいる。本種虫こぶの大きな特徴は、アブラムシが途中で死亡した失敗虫こぶから異常な形態をした花が咲くという「遅れ花」現象の存在である。虫こぶが途中で花に変換するというこの興味深い現象は、虫こぶ形成過程で花の形成に関わる遺伝子が利用されていることを示唆するものである。そこで本研究では、この「遅れ花」現象に着目し、虫こぶ形成の分子機構を、昆虫と植物の両方から明らかにしようとしている。アブラムシは、自身の唾液を植物組織に注入して虫こぶを誘導することから、虫こぶ形成を誘導する何らかのエフェクター因子がアブラムシ唾液中には存在すると考えられる。本研究では、唾液腺トランスクリプトーム解析を行い、エフェクター候補遺伝子を複数同定することに成功した。また、虫こぶ形成過程において発現変動する植物側の遺伝子を網羅的に解析したところ、花の器官形成に重要な役割を果たす転写因子をコードするMADS-box遺伝子やその上流制御遺伝子が、虫こぶ組織において発現亢進していることが明らかになった。本講演では、これまでに得られている結果について紹介し、昆虫による植物の形態操作の分子基盤とその進化について議論したい。