| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S20-1  (Presentation in Symposium)

趣旨説明:人と自然のつながりの現在地とは【S】
Symposium Overview: Exploring the Present State of Human–Nature Relationships【S】

*時任美乃理(京都大学)
*Minori TOKITO(Kyoto University)

近年,国内の里山を含む二次林・半自然生態系では,資源需要や担い手の変化に伴う管理低下(アンダーユース)が進み,生態系機能への影響が顕在化しつつある。都市の消費や遠隔の意思決定が,空間的に離れた森や海へ波及する場面も増えた。一方で「使えば守れる」という単純な話でもなく,需要先行の利用拡大は更新不全や均質化を招きうる。国外でも,熱帯のフロンティアでは単一作物化が進行し,生態系サービスの減少と地域のレジリエンス低下がみられる。こうした「不足と過剰」の併存は,自然を人間から切り離す発想や「保護/利用」の線引きの限界を浮き彫りにしている。保全の主戦場は農林地や集落を含む生活圏へと広がっており,その中で人と自然の関係そのものを再設計することが不可欠となっている。
本シンポジウムでは,人と自然の関係が暮らし・生業・移動・制度の中で編み直されている現状を「風の谷」「環境ものさし」「地域外へ移動した人々(他出子)」といった,学問領域を超えた多角的なキーワードを用いて噛み砕き,課題を共有する。そのうえで,
ーどの程度・どこで・誰が関われば健全性は保たれるのか
ー栄養・水・炭素などの物質循環に加え,資金や情報,人の移動まで含む「見えない循環」を,どのような指標で可視化し,どのスケールで合意形成し,管理するのか
を議論する。総合討論では,議論の手がかりとして「森里海連環学」や,流域圏にまたがる連環と流域ガバナンスの知見なども共有する。
基調講演に安宅和人氏を招くのは,生態学の知見を「守る/使う」の議論に閉じず,残すに値する未来を地域で“設計し直す”議論へ接続したいと考えたからである。科学が示す限界や不確実性を踏まえつつ,何を残し何を手放すのかという価値判断を,人と自然が調和して暮らす新しい地域づくりへと橋渡しする視点を導入する。「風の谷とは」という共通の問いをもとに,後続の講演と総合討論を通じて,生態学が社会と協働するための論点整理ができればと考えている。


日本生態学会