| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S23-6  (Presentation in Symposium)

湿地におけるメタンの時空間変動とその制御:NbSへの展望
Spatiotemporal dynamics and regulation of methane in wetlands: perspectives toward nature-based solutions (NbS)

*土屋健司, 高津文人, 三浦真吾, 田和康太, 松崎慎一郎, 渡邊未来, 角谷拓, 今藤夏子, 中西康介, 関根睦実, 末吉正尚(国環研)
*Kenji TSUCHIYA, Ayato KOHZU, Shingo MIURA, Kota TAWA, Shin-ichiro MATSUZAKI, Mirai WATANABE, Taku KADOYA, Natsuko KONDO, Kosuke NAKANISHI, Mutsumi SEKINE, Masanao SUEYOSHI(NIES)

湿地は治水・水質浄化・生物多様性保全・炭素貯蔵など多面的な生態系サービスを有しており,NbSの場として期待される一方,嫌気的分解に伴うメタン(CH4)放出が無視できず,生態系サービス間との調整が必要である.本発表で扱う「湿地」は,狭義の泥炭湿原に限らず,淡水域における浅い水際・浅水域(谷津田景観の水路・小規模湿地・ため池,耕作放棄水田などの湿地化水域,湖沼沿岸浅水域等)を広く対象とする.湿地は地球規模の自然起源CH4の主要な放出源であり,造成・再生・管理の在り方は地域の環境改善のみならず気候変動対策としても重要である.本発表では,湿地における溶存CH4動態を「生成―酸化」の枠組みで整理し,生成抑制と酸化促進による制御可能性を議論する.メタン生成は有機物の蓄積と還元環境に依存し,その規定要因として①水理学的滞留時間,②湿地形成からの経過時間(成熟度),③流入負荷や周辺植生に由来する有機物供給が重要である.これらはそれぞれ,水管理(溜める/流す)による滞留条件の調整,かいぼり・池干し等を通じた底質・水生植生の更新,施肥抑制や植生管理による負荷・基質供給の制御といった人為介入によって調整できる可能性がある.観測の結果,水路・小規模湿地・ため池を比較すると,滞留時間が相対的に長い水域タイプほどCH4濃度が高い傾向が見られた.また,湿地形成後の経過に伴うCH4濃度上昇傾向も確認された.さらに,湿地周囲の植生(広葉樹林/竹林)の違いにより供給有機物が変化し,CH4生成が異なる可能性が示唆された.これらは湿地をNbSとして活用する際に,介入によってCH4生成を低減できる余地があることを支持する.本発表では生成側の制御に加え,メタン酸化の変動に関する観測結果も紹介し,湿地NbSの実装において,流域スケールの負荷低減と水位・植生管理を組み合わせたCH4制御の設計を議論する.謝辞:本研究は,環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20232002)により実施した.


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