| | 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨 ESJ73 Abstract |
シンポジウム S24-1 (Presentation in Symposium)
コンゴ盆地のピグミーとよばれる人々は「森の狩猟採集民」として知られてきた。長いあいだ彼らが古くからの狩猟採集民であることを疑う研究者はいなかったが、1990年頃、熱帯雨林では年間をとおした狩猟採集生活は不可能でないかという疑義が呈された。野生食物資源の生態学的データは乏しかったし、森の狩猟採集民は総じて近隣農耕民から農作物を入手していた。そして、それは近年だけのことではなく、最初からそうだったのではないか。つまり森の狩猟採集民は、農耕民から安定して農作物を入手できるようになって以降に熱帯雨林で生活するようになったのであり、「真正」な狩猟採集民ではないのではないか、というわけである。この疑義は、人々がありあまる資源を享受しなが生きている豊饒の地という熱帯雨林のイメージを、農作物の補填なくして人間が住むことのかなわない極限の地へと急転回させるものであり、熱帯雨林における人間の歴史とその生態基盤について根本的な再検討を迫るものであった。この疑義に関して、カメルーン東南部の森でくらしているバカ・ピグミーの生態人類学的研究から重要な知見が得られた。バカたちは野生ヤマノイモを主たるカロリー源とする狩猟採集生活をしており、この生活の記録は上述の疑義を払拭しうるものであった。ただし、ヤマノイモは光環境のよい場所に集中分布する傾向があり、焼畑などの大規模な植生撹乱がその分布に影響した可能性が示唆された。しかしながら、ヤマノイモを大量に食べたキャンプ跡地にはかつての調理時に捨てられた芋片からヤマノイモが再生することが確認された。つまり、バカたちがヤマノイモを食べることで、彼らの生態基盤が再生産されるのである。こうして狩猟採集民の「真正性」への問いかけが、当初の意図とは異なるかたちで、人間の都合にあわせて自然を改変する農耕民と、ありのままの自然に依存する狩猟採集民という二項対立を掘り崩すことになった。