| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第73回全国大会 (2026年3月、京都) 講演要旨
ESJ73 Abstract


シンポジウム S25-5  (Presentation in Symposium)

国内外来魚問題の解決に向けて:札幌市を流れる琴似発寒川のサクラマスでの取り組み
Toward the solution for domestic nonnative fish problems: A case study of masu salmon in Kotonihassamu stream, Sapporo

*長谷川功(水研機構), 渡辺恵三(北海道技術コンサ), 中村慎吾(札幌市さけ科学館), 佐橋玄記(水研機構)
*Koh HASEGAWA(FRA), Keizo WATANABE(Hokkaido Gijutsu Con. INC), Shingo NAKAMURA(Sapporo Salmon Museum), Genki SAHASHI(FRA)

 しばしば外来魚問題は、国外外来魚と国内外来魚に分けて扱われる。外来魚といえば「外国の魚」というイメージが強く、また国内外来魚は「日本の魚」であるため外来魚と認知されにくく、国外外来魚と比べて国内外来魚に対する市民の問題意識は低い。しかし、国内外来魚は、国外外来魚と比べて移動距離が短く、導入先の環境が原産地と似ているため、定着しやすいといった問題もある。なお、導入先に同種の在来個体群がある場合は、個体群間移植ともいうが、国内外来魚の枠組みで議論されることも多い。
 サクラマス(ヤマメ)は、生活史二型を示すサケ科で、北海道の在来個体群は一部の個体が海へ下る降海型である。一方、本州や九州の内陸部の個体群は、全ての個体が一生を河川で過ごす河川型である。本種は良好な自然環境の象徴とされることも多く、環境教育イベントで養殖場産個体が放流されることがある。その際、在来個体群が生息しているにもかかわらず、原産地不明の個体が河川に放流されるため、放流個体との交雑による遺伝的撹乱が懸念される。特に、降海型と河川型の交雑は、個体群の生活史特性に影響しかねない。また、養殖場産個体は、家魚化選択(飼育環境への適応)のため、放流後の生残率が低いという問題もある。そのため、養殖場産個体の放流は、環境保全・自然保護といった環境教育の本来の目的とは逆の結果を招きかねない。
 札幌市を流れる琴似発寒川でも、市民団体によって原産地不明の養殖場産サクラマスを用いた放流が小学生向けの環境教育として行われていた。しかし、演者らからの指摘を受け、環境教育の手段が野生サクラマスの観察会へと切り替えられた。また、本事例を紹介しつつ演者がはたらきかけたこともあって、北海道庁が放流の問題について注意喚起するようになった。
 今回の事例を生態学会で紹介することで、分類群を問わず国内外来種問題の解決に取り組む同志の一助になれば幸いである。


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